二月は 逃げる

ぼんやりと朝が来るのを待っていた(わけじゃなくって眠れなかった)
時間より利便を選んでしまったらきみがいないといまさら気付く

いつもなら怒りっぽくなるけど今日は悲しくなってピアノをさわる

またあした。いつか途切れてしまうんだ今は続いているけどいつか

思い通りにならないのが悔しくてめくった布団を元に戻した

投げ出した問題集に泣くふたりやる気なさげに昼寝をはじめ

充電をやらなくなって一週間きみは赤でも生きてえらいね

シャンプーが合わないせいと妹の部屋が汚いせいで不機嫌

死に水を取ってやったらいいというおまえがしねばいいんじゃないの

伸びすぎた爪のオレンジ色はまたはげてあおむらさきをしている

このまんま卒業式でも寝ていたい。送辞も答辞も今年はしないし

もうつかれた。もう疲れたっていいながらどこかでいい子を演じ続ける

眠くなり体は沈んでいくすでに夢も見始めてるかもしれない

退屈を補うビデオは巻き戻し明日ありがとうって返すよ

暖かいなにかがほしくてピザを焼くさっきモス食べたばっかりなのに

そこだけが見えてる気とかになるくらい左手指輪の効果はでかい

投げ出した言葉を拾いに帰るときカラスみたいな黒髪光る

メンドウを全て飲み込む穴があり蓋もできたらいいだろうなあ

外に出てみても落ち着かないレンズ越しでの梅は咲いているのに

ぺしゃんこになった前輪抱き上げてろくまんえんはゴミ箱へいく

イタ電がむかつくし、なんかうるさいし、ネット絶てるし、電話線抜く

二人してでばったおなかを見せ合って「痩せなきゃねー でもケーキ食いたい」

この位置は恋人よりも曖昧で絶対でいて安全である

青空が紫色にならないと嘆く腹黒少女は寝起き

逃げ出したのはいいけれど立ち止まることができなくなってこまった

お互いに足りないものを補っているのか暇をつぶしてるのか

ほんとうで始まる言葉はぜんぶうそこれもあれもうそだからぜんぶ

生きていくすべてを放置したいんですきみをおもうとかきみをおもうとか

ふ と思う。夜会うはなしが流れてることに今まで気付かなかった?

ひとりでも生きてけるのは息をして動くきみがどこかにいるから

台風のようにわがままだったけどありがとう、まだ世界はくらいよ

春がきたみたいうっとりするほどのひなたで君と腕を組みゆく

一瞬ののち新しく満ち満ちるおっても掴めはしない逃げ水

久しぶりに泣いたよ他人や映画じゃなく死に場をなくした自分の声に

苦しい息が詰まる欲張りになる引き止めてほしいでも逃げなくちゃ

ぼさぼさの寝ぼけた頭で考えるどうしていちいち信じちゃうのか

ビューラーを上げる瞬間わたしにはないものを見た隙間の事実

ひらがなであいづやいちもすきですと書き置く少女はすがたを消せり

(こんなことなら引っ越した時先生に同じクラスにしてと頼めば)

お昼からすき焼きなんか食べてるから土曜日なんか忘れてたのに

なんなの!と叫びたくなる 運の無さ、満月がまた曇りの悪夢

無防備を唱える前に先へ行くことにしている(目は閉じたまま)

意味を持つことに意味などないのだから約束破りもまた意味は無い

あなただけは二つに分かれちゃダメなのよ 澄んだ夜空の北極星へ。

ずいぶんと年の離れた三姉妹みたいな似てない近所のおばさん

何年後も何年後も何年後もまた何年か後を考えるでしょう?

引き止めてくれようとするその意思が近すぎたって教えてくれる

なぜだろうあなたの不安が寄り添ってわたしが不安になったじゃないのよ

誰かによってとめられることのない今は誰も気付かぬままに過ぎてく