生まれた瞬間から、ずっとひとりなのに、それでもひとりになりたいと思う。家に誰かいても誰もいなくても、ベランダに出て、あまり澄んでるとは言いがたい低い空と、近い屋根とを見ていると、やっとひとりになれたと思う。今の自分に見合った小さな城の小さなベランダは、お向かいさんと距離が近すぎるけれど、束の間意識をゼロにしてくれる場所だ。給与の待遇は悪いけど女社会にしては居心地がいい会社がわたしの世界のメインで、電車に揺られて11時過ぎに駅について、鍵を開けるまでの微妙な距離の途中で、唐突に誰かと喋りたくなる。誰かが誰かはわかっているのに、動けないまま自転車をこぐ。そして気づいたら玄関で靴を脱いでいる。遅すぎる夕食をとって、眠る。単調と言えば単調で、満たされているかと言えばそんな気もする。ストレスは少ない。怒る気力と時間がないというのもある。駅のホームでけんちゃんに似た後ろ姿を見つけて動揺して楽しんだり、たいした事件がなくて平和だ。今晩は雨が降っていてベランダに出られないのがつまらない。晴れた休日が待ち遠しい。